ボクキキⅥ.シルビア編1:深夜の訪問者。
とある地方都市。今日は、イベントのアルバイトで、出張中。
東京を離れて、ちょっとしたいい旅夢気分だったのに、まさかイベントがマンホールの
展示会だとは!
朝5時から会場の準備を始めて、日付が変わるころに、後片付けが終わった。
力仕事は向いてないんだ。握力左右17kgだよ、ぼく。
もうヘトヘトのクタクタで、泊まっている小さなビジネスホテルにたどり着き、
服も脱がないでベッドに倒れこみ、眠りに落ちようとしたその時。
ピンポ~ン・・・
(誰か来た?でも、無視しちゃお)
ところが、ピンポンピンポンピンポンピンポン!もおぉぉぉぉぉぉしつこいっ。
フトンかぶって無視し続けると、ゴンゴンゴンゴンゴン、ドアを叩く激しい音。
何事!と、あわてて開けると、叩いてるんじゃない、ヒールでドアを蹴り続けている
女の人。
夜なのにサングラス。男物のトレンチコート。ヒールが高いから、身長もぼくより高い。
「オマエなんでまだ服なんか着てるんだよっ!」
なんだなんだなんだ?
「あ、ちょっと、疲れてたんで、、、すみません」
「んなこと聞いてんじゃねー!どうして、わたしが来る前にハダカになって、お利口さんで待っていなかったかって、聞いてんだよっ!」
!マークの多い人だ。
あ、部屋の中に入って来ちゃった。
いやな予感、、、つーか実感。
「脱げって言ってんのがわかんねーのかよっ!」
「はははいっ!」
ぼくは大急ぎですっぽんぽんになった。
「なに立ってんだよ」
ピエールを見た。まだタッてない。
「バカヤロー!四つんばいになれって、言ってんだよっ!」
ぼくは仕方なく四つんばいになった。こんなカッコ、中学生のマスゲーム以来だ。
あ、マスってそういう意味じゃなくって、って誰も聞いてないか。
「なにニヤニヤしてるんだよっ!」
すみません。。。
「オマエには、そのカッコがお似合いだよ」
って、言いながら、その人トレンチを脱ぐと、なんと驚くことに!ってわけはないか、やっぱり女王様。お約束どおりのボンデージ。
「わたしにいじめて欲しかったから呼んだんだろ、ヨシダぁ?」
ヨシダ?この人、やっぱりなにか重大なこと、間違えてる。。。
「あのぉ、お名前なんておっしゃるんですか?」
と、ぼくが聞くと、
いきなり持ってたムチを、バシーーーーーンってやって、
「オマエが、シルビア様お願いしますって電話したんだろうがあああああ!」
電話、してないし。シルビア様、お願いしてないし。
あらためて、彼女・・・失礼しました、シルビア様を見ると、
濃厚なメイク、鼻ピアス×2、へそピアス×5、それから太ももに派手なタトゥー。
真っ赤なバラをくわえた・・・へび・・・おおこわ。。。
「さあどこから責めてみようかねぇ、ヨシダ」
と、ムチをバシーーーーン。
ヨシダじゃないんだけどなあ、、、それ言うと、また怒られそうだしなあ。
それはそうと、さっきからムチが部屋のあちこちに当たって、モノをこわさないかって、ひやひや。シルビア様自身も、なんだか気になるらしく、持ってきたバッグの中から、
違うムチを取り出した。前のに比べて、約半分の長さ。
「いつも二つ持ってるんですか?」
って聞くと、
「うん、こっちはシングルルーム用。さっき間違えちゃった」
と、今日はじめてのまともな会話。
でもぼくは、もちろん、ハダカで四つんばいのまま。
「ごほん、んん、ん」
咳払いして、仕切りなおし、って感じでシルビア様、リターンズ。
「オマエ、どうせいつも、ずるいことばっかり考えているんだろう?ブタヤロー!」
、、、ブタじゃないけど。
「ずるいこと、って?」
「金とか女とかそんなことだよ、このロリコンヤロー!」
、、、ちょっとロリコンかな。だな。
「なにスケベ笑いしてるんだよっ!」
「、、、すみません、でもお金とか興味ないです。女の人も足りています」
「モテモテぶりやがって、このウソツキチビ!」
ムチを、ビシイイイイイーン。当たったら痛そう。。。
「オマエの汚いケツの穴に、このとがったヒールをぶちこんで、ウソのかたまりをダップンさせてやろうか!?」
「うわーー、結構ですよ、やめてください、でもそれ気持ちいいんですか、って聞いてみたりしますけど、女の人のこと、ウソじゃないんです。勝手に押しかけてきて、上に乗ったり下になったりして、ぼくも困っているんです」
「困ってる?勘違いすんなよ、来てやってるんだ、ぜんぶオマエのためじゃないか、このチンカスヤローがっ!!!」
「・・・来て・・・やってる・・・?つまり、シルビア様も、例の女?」
「これまでの人たちから聞いてはいたが、」
はい。
「オマエ、ほんとにわかってないな」
はい。。。
「さあて、どう料理しようかねぇ」
料理されるんだ・・・どうせならおいしく・・・なんて思ってたら、
ん?なんだこのデジャヴュ、もしくは聞き覚えのあるしゃべり方・・・。
「オマエ、女のこと好きになったことないだろう?」
・・・この、「う」のアクセント・・・。
「早く答えな!」
ツバサセンパイは、憧れと好きは違うって言ってたな。
「ありません」
「それはオマエが、メメしいヤツだからだ」
「そんなことないよ」ちょっと、カチンと来た。
「はい、だけで答えろ!」
「はい」
逆らったのに、もう負けた。
「男なんて、みんなそうだ、みんなメメしいヤツばかり!」
「はい」←メメしい。
「いつもウジウジ悩んでばかり!」
「はい」←ウジウジ。
「男らしいとか、聞いてあきれる!」
「はい」←男らしくない。
「親の顔が見たいもんだねっ!」
ぷちっ。そればかりは許せん。
「おかあさんのことは言うなぁぁぁ!」
「わかったよ、わかった」
女王様、ちょっと困ったような顔をして、
「なんかペース狂うなあ」
ってもらして、軽く深呼吸、さあつぎのお題行くよ、って感じで、
「政治が腐敗してるって、思ってるだろう!」
なんだ、この展開?
ま、とりあえず、言いつけのとおり、
「はい」
「どうせ選挙にも行ってないのに、エラソーなこと言うな!」
「行ってますよ」
「、、、じゃあ、その1票で、オマエはなにができたんだ?!」
女王様というよりも、新橋駅前SL広場の酔っ払い親父だな、こりゃ。
ぼくが返答につまっていると、
「傍観者!」とシルビア様。
なんかリアルに責められてるな。正論って、結構、責め言葉。
「たしかに、、、そうですね」
「そうだよ、男はみんな、卑怯な傍観者だよっ!」
男、ってとこになんかあるな、この人。
「無責任で、いつも言い訳を考えているんだ」
「たしかにそうですね、ごめんなさい」
ぼくが素直にあやまると、シルビア様、また困った顔で
「あのさあ、あやまらないでくれる?それ以上責めにくくなっちゃうから。あと、いちいち返事されると、プレイが成り立たないから、ふつうのキツめの会話だから、プレイじゃないから、そうなると」
「すみま、、、あ、はい」
返事は、はい。
そして、女王様、また軽く深呼吸。
「ハンバーガー好きなんだろう?」
なに、それ、また、なんちゅうプレイ?
「腹減ったんだろう?」
おなかはすいてるけど、それよりも・・・「う」だ。
「なんだろう?」「減ったんだろう?」「思ってるだろう?」
もしかして、たぶん、いや、きっとそうだ。
「マチコ?」
女王様の厚化粧の奥の顔色が、一瞬変わったように見えた。
「誰だそれ!?」