ボクキキⅥ.シルビア編3:マチコとの再会。
「オマエら男は、ヒヨコだ、アメンボだ、ちょろQだ。自分一人では何にもできない、
どこへも行けない、そのくせに、自分をライオンか何かのように勘違いしている」
「・・・そういうとこあるかもね」
「愚かな小動物!」
「そうだね、ぼくも頑張らなきゃね」
「子羊ども!めーめー鳴いてろ!」
「めーめーめーめーめーめー」
「めーめーうるさいんだよっ、この小粒納豆!」
「あ、ごめん、うるさかった?」
シルビア様、またちょっと、マチコに戻って、
「あのねヒトミくん、さっきも言ったけど、いちいち返事してくれなくていいのよ」
「だって、キミがいろいろ話すから」
「あのねえ、これSMだから、久々の同窓会じゃないから」
「でも、SMって、攻めと守りでしょ」
「・・・あのー、ヒトミくん、もしかしたら、SMのこと、SEMEとMAMORI
だって思ってない?」
「あ、いけね、SASEROとMATTE、だったっけ?」
「それも、、、違うけど」
「えーっ、じゃあ、SAKURAとMOMIJI?」
彼女、ちょっと怒ったように、
「ふざけてるの?それとも、その程度の理解で、わたしのSMに参加してるの?」
「すみません。。。でも、でもだよ、SMってすばらしいコミュニケーションだと思うんだ。だって、需要と供給のバランスがちゃんととれてるし、あうんの呼吸ってあるでしょ、
打てば響く、っていうか。おたがいわかりあおうとしなければ、できないよ」
マチコ、もといシルビアが、怒声を浴びせた。
「男たちへの復讐だ!そのために女王様になったのだ!これは決して、コミュニケーションなんかじゃない!ましてや、わかりあおうとするわけがなああああい!!!」
見事な激怒。花びんが倒れて、壁の絵が落ちた。さすが。
でも、勇気をふりしぼって、言ってみた。
「ぼくには、シルビア女王様のなさってることって、」
急に敬語。怖いから。弱虫。。。
「わたしのほうを向いて、わたしの話を聞いて、わたしの責めを受け入れて、わたしの
メッセージを受け取って、って叫んでるようにしか思えないんだ」
シルビア様、天井に亀裂が入るような声を張り上げて、
「わたしは汚らしい男どもが、心底憎らしいんだ!滅ぼしてやろうとしてるんだ!
地上から消えてなくなれ、って叫んでるんだああ!!!」
「でも、男たちは、消えてなくならない。だってキミといると気持ちいいから。幸せだから。キミが幸せにしてくれるから。キミが素敵だから。キミが必要だから。キミとわかりあいたいから。キミとつながっていたいから」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさーーーーいっ」
シルビア様は、涙声だ。
ぼくは、容赦なく続けた(ぼくって、S?)
「SMって、おおきな愛だと思う」
「愛なんかじゃない、愛なんか、、、じゃない」
「SもMも、異常なもの。もともと、世の中に許されてなかったこと。つまりSMって、異常な存在そのものを認めないと、始まらないでしょ?すべてのセックスを肯定する。
異常も正常も認める。それって、大きな愛。違う?」
シルビア様は、わーっと泣き出した。
「SMは、すべてを肯定することだもん、いじめとは真逆のものだもん、復讐なんかにはならないよ」
シルビア様は、ぼくの胸に顔をうずめて、泣きて続けている。
「だいいち、マチコは、復讐するには、やさしすぎるいいコだよ」
シルビア様は、濃いメークを涙でドロドロにした顔を上げ、
「シャワー浴びてきていい?」と言った。
シャワールームから出てきたシルビア様は、すっかりマチコだった。
ぼくは、彼女のカラダをおおっているバスタオルをはずした。
顔やからだに十数個付いていたピアスはぜんぶはずされ、例のウナギがバラをくわえた
タトゥーもきれいさっぱり消えていた。「シールだったの」だそうだ。
・・・どこで買ったんだ?
あどけなさが残る素顔を赤らめて、マチコは、「電気を消して」と言った。
ココロとカラダを解放&開放するのが、セックスの醍醐味とするならば、復讐という呪縛から解き放たれ、シルビアという仮面から素顔を開放したマチコは、その夜、セックスには最高のコンディションだったのだろう。
のびやかな長身がしなやかに動く様子は、まるで水の中を泳ぐようだ。
ぼくのカラダに彼女の長い手足がからみつき、あちこち密着させてきて、、、気持ちいいんん。
なのに、つかまえようとすると、するりと手の中から逃げ出す、さすがウナギ(ごめん)。凶暴な女王様ではなく、奔放な王女。
やっとのことでつかまえて、ウナギに串を打つように、
ピエールを彼女の奥深くチェックイン!すると細面の顔が、ドキッとするほど色っぽい。
さっき感じたあどけなさは消えうせて、大人っぽい流し目が、
彼女のもうひとつの顔なのか(教訓②女の顔は、ひとつじゃない)。
男たちがウナギ祭りをした、ほんとうの理由を見たような気がした。
寝てしまっていたらしい。マチコが電話する声で、目が覚めた。
「はい。すみません。いまからすぐに向かいます」
ぼくと目が合うと、
「ごめん、起こしちゃったね」
ぼくに小さなキスをして、
「だいじょうぶ。わたし、ちゃんとイッたよ」
そして、例のボンデージスーツの上に、トレンチコートを着て、
「隣の部屋と、間違えて来ちゃったみたい。でも会えてよかった」
ぼくも。
そして、「じゃ、ちょっと、コミュニケーションして来るね」
とにっこり微笑んで、ドアを開けた。
入れ違いに入って来たのは、おなじみのオネーサン。
「今日ヒトミくんが使った技は、」
技?
「SM業界では、幻と言われているものなの」
幻?
「女王様の責めに、誠実に反応する。ココロをこめて、相手を肯定する。
そうすると、SとMは、最後にはSもMもなくなって、ひとつの存在になる。
実はSとMは対極じゃない、表裏一体のもの。その境地にたどり着いた二人は、
神と呼ばれる。でも、快感のあまり、頭がヘンになることもあるの。
だから危険な禁じ手として、封印されてきた」
禁じ手?封印?
「その名は、言葉責めに対して、ココロ返し!」
ココロ返し、か。いい名前じゃないか。
「まぐれだろうけどね、まぐれを引き当てられるのも、実力だから。
・・・伸びたね、ヒトミ」
あれ、オネーサン、涙ぐんでる。
「あら、スタンプが5個たまったね。じゃあこれあげましょう」
もらったのは、1センチくらいの、小さなカエルの人形。
「ファンタジスタや、キミの役立たずピエールがダメなときに、使いなさい」
また、意地悪に、逆戻り。でもありがとう、頑張るよ。
さあ、もう寝よう。ぐっすり眠って、今夜は夢精だ。