カプセルの記憶。
A「カプセルの中、入ったことある?」
B「どんなカプセル?」
A「薬」
B「あるわけないでしょう」
A「オレ、この間入ってたんだ、夢かも知れないけど」
B「夢でしょう」
A「身動きとれなくってさ、カプセルの中にぎゅうぎゅうに詰まってたから」
B「何が?」
A「オレが、て言うか、粉が。粉なわけ、オレ、当然薬のカプセルの中だから
パンとかじゃないわけ、パンとかじゃないわけ」
B「はい、オマエはパンじゃない」
A「そう、パンじゃないわけ、粉なわけ。でもオレがオレだっていう意識はあるの、
意識体としての粉」
B「意識体としての粉」
A「さらに視覚もあるわけ、でも粉だから目なんかないわけで、
たぶん意識体が視覚を持ったんだと思うね、これすごくない?
世界初、視覚を持った意識体。
ただその視界も固定されてるから、ぎゅうぎゅうだから、
身動きとれない満員電車って乗ったことあるでしょ?
あれをイメージしてくれればいい」
B「つぎからそうする」
A「そしてオレは固定された視界の片隅でカプセルの内壁は動くのを見た!
恐怖よ、誰かがカプセルを開けようとしているのよ。
オマエ、もしかしたら薬のカプセルを開けようとしたことある?」
B「あったかもね」
A「それ絶対やめたほうがいいよ」
B「ああ、二度としない」
A「そのチカラに抗うように、オレは必死でカプセルの内側から
動きを押さえようとしているんだ。
でもしょせんは粉対人間、結局カプセルの封印は解かれて、
オレは外へ飛び散った。そこまでしか覚えていない」
B「ついでにそこまでも忘れてくれ」
A「ただ最後にオレの視覚が捉えたものは、あわれにも2つに分断されたカプセル、
その色は半分が白で半分が水色、そうオマエがいつも飲んでるヤツだ!」
エフエム東京「TOKYO COPYWRITERS’ STREET」2011年5月放送