コトバのコトバ

第5回 大阪物語、その3

前回までのあらすじ

(市川準さんとの打ち合せ風に大阪を訪れた一行含むオレは、今度いつ東京で打ち合せしましょうかという打ち合せを終え音速で有名焼き肉屋に向かったのであったが、この勢いで大阪物語を書き続けていたらいつまでたっても終われないことに気がつき始めていた)

「旅とは落差の発見である」という口を酸っぱくというかキーボードを汗でしょっぱくしながら書いている論点においては、実は東京⇔大阪が最高の旅である。もちろん急に何を言い出すんだそんなもん出張じゃないか的違和感のある主張には理由があって、それはこの「旅チュー」記念すべき第二回めで次回書くと予告しておいて書かなかった47都道府県県庁所在地巡りに関わっている。 私事だが(ここに書いてある全部そうであるが)オレは温泉が苦手である。なぜか?①長時間湯船に入れない。②湯上がりに酒を飲むと必ず短時間でつぶれる。③A温泉とB温泉の区別がつかない。そんなことで文句をつけられるとは①も②も温泉からするとふざけた言いがかりだが、今回は③に触れるがこれももちろん言いがかりである。苦手だから行かないから知らないから区別がつかないのだと諭されればそれまでのことなのだが、でもね、数少ない経験を引っ張り出す限りでは、お風呂でしょ、浴衣でしょ、懐石風料理でしょ、和室でしょ、仲居さんでしょ、女将さんでしょ、細い川でしょ、朝ご飯の干物でしょ、でしょ?街での生活と温泉での時間は明らかに違うしそれこそ「旅=落差」なのだが、ところが温泉間の落差はそんなでもない。

そこで新潟古町「とんかつ太郎」のカツ丼である。そのたれカツ丼をはじめ同じカツ丼の名の下に世の中には実にさまざまなカツ丼(カツ丼間落差)が存在することを知り、ついに旅する理由を見つけたと記念すべき第二回めに書いた。そんな落差を確認するためにはあたりまえのことではあるが、どこにでもあるものでなければならない。複数を比較してその差異の発見に「へ〜」と感動する必要があるからだが、逆に言うとある程度以上のものが揃っているところがその旅の行き先になる。結論から言うと、モノやヒトの数、文化の習熟や集約を考えると、都道府県庁所在地が旅の目的を果たす効率がよく事実発見に困らない。それが47都道府県庁所在地巡り(都に行くということはないので現実的には46道府県)の真実である。その論点において、モノヒト文化を考えると東京⇔大阪が最高峰ということになる(長かった)。

その旅先は温泉とは異なり日常生活と同じコンクリート製の街である。宿もコンクリートでできている。その両者の落差はマンションと木造の日本家屋ほどではないが、かわりに行き先ごとの、例えば違ったカツ丼を味わわせてくれる。微差だ、しかし確かな差だ。そしてその微差は47カ所で楽しめる。微差を確かめる指標は自分で決めればいいのだ。ちなみにオレは「洋食」、「喫茶店」、「クラブ(踊る方のヤツ)」である。洋食屋(とくに老舗と呼ばれている店)のメニューをのぞけばその街の食傾向が知れるだけでなく、おいしそうなものであふれていそうなのに意外に名店がない街(福岡)とか目立たないのにそこの文化の深さを伺わせるような名店を持つ街(津)を知ることができる。喫茶店では店も客もいろんな表情を見せてくれ、クラブでは音楽のことはもちろん、遊び方、大人度、市民性まで垣間見ることができる。あれ?また文字数が尽きたよ。大阪から出られない!

 

宣伝会議「ブレーン」2010年9月号掲載