コトバのコトバ

ボクキキⅡツバサ編2:ツバサのヒミツ。

青山のイタリアンレストラン。

「ところで、夢がかなったって、なんですか?」
「今日、CAの内定をもらったの、外資系だけど」
「うわあー、おめでとうございますっ!ツバサさん昔から、CAに憧れていたじゃないですか。なるほど、憧れで終わっちゃダメなんですね」

お調子者のぼく。うれしそうなツバサさん。
ワインでちょっとほほが色づいている。
太陽の下とはまたちがう美しさだ。そういえば太陽の下でしか見たことなかったし。

「なぜわたしがCAになりたかったのか、知ってる?」
ぼくが首を振ると、ツバサさんの話が始まった。

「パパは、パイロットだったの。過去形。わたしが5歳のときに、死んじゃった。訓練中の墜落事故」
レストラン中の、音が消えてしまったみたいだ。

「パパは空と飛行機が大好きだった。だからわたしの名前もツバサ」
そうか、ツバサって、サッカーのほうじゃなかったんだ。
「だからわたしは誓ったの。パイロットにはなれないけど、いつかはCAになって、パパとおなじ大空を飛びたい、飛ぶ、絶対飛んでみせる、って」

(ぼくのかなえたい夢はなんだろう?)

「ツバサさん、やっぱりすごい。おとうさん、喜んでくれますよ、きっと」
「そうだといいな、パパ、待ってくれているかな」
そして、遠い目で、窓ごしに夜空を見上げた。

トマトのタリオリーニも、うにとじゅんさいの冷製カッペリーニも、乳のみ子羊の香草焼きも、イサキのアクアパッツアも、たぶんおいしかった。たぶん。
ツバサさんとお皿をとっかえっこしながら食べてたら、もうそれだけで、幸せでおなかいっぱいになった。

満足いっぱいで、にやにやした顔していたら、ツバサさんが目を閉じて、くちびるを強くかみしめている。

(ぼく、はしゃぎすぎちゃったかな、、、)

「ホントはね、飛行機が怖いの!パパが帰って来なかった日のこと、いまでもよーく覚えている。わたし、帰ってこないパパのこと、ずっと待ってた。その日からわたし、ひとと離れるのが怖くなった。そしてその日からわたし、いつの日かパパを裏切った飛行機に乗り込んで、仕返ししてやろうと決めたんだ。飛行機が好きでCAになるんじゃない。アイツが、憎くて憎くて・・・」
涙で言葉が続かない。

ぼくは手をのばして、ツバサさんの手に触れた。
なにも言えずに黙っていたけど、ホントはこう言ってあげたかった。
気持ちは、よくわかります。でもそういうの、屈折してる。ツバサさんには、似合わない。
好きなら好き、嫌いなら嫌い。それだけでいいのに。

しかもツバサさん、ほんとうは飛行機が大好きなんでしょう?
大好きなおとうさんの大好きだったもの、嫌いになれるわけないじゃないか。

ツバサさんが顔を上げた。
「ところでヒトミくん」
話が急に変わっている、らしい。顔つきも違う。

「キミ、ほんとうに、勘悪いね」
はぁ?

「どういうことですか?」
いきなりで、まったくわけがわからない。

「このストーリー展開って、ヘンだと思わない?」
????????????

「このあいだの神社での出来事、覚えてる?」
神社って、あの夜のこと?

もちろんだ。あんな話、誰にも話せないで胸にしまってある、、、っておい!
「ど・ど・ど・どうしてツバサさんそれを?」
「話は最後まで聞きなさい」
「・・・はい」

「キミのおかあさんが、交通事故にあわれた。いま意識不明の重態だ。そこに、ひとりの女性が現れた。彼女が言うには、これから12人の女たちがキミに襲いかかる。キミは彼女たちとセックスをして、自分より先にイカせなければならない。ここまでいいわね」
うなずくしかない。

「キミは童貞だ!」
声が大きいですよ。

「つまり、最初に差し向けられた女が、初体験となる」
はつたいけん♥かあ。
「そんなタイミングで、憧れの先輩と会った。さあ、まだわかんないか」

ツバサさんはここでぐっと身を乗り出して、
「ヒトミくんは自分しか見えてない。見ようとしていない。わがまま、って意味じゃないよ。キミはスーパーマーケットで、誰かがひっくり返したカップラーメンを並べなおしてるあいだに、なにを買うか忘れるような人」
わかりにくい例えだな。

「でも、そんなことをしているうちに、ほんとうに大切なものをいつも見落としてるの。キミにわたしのこと告げ口したマユミちゃんは、キミが好きだったのよ。逃げちゃダメ。触ってごらん。触れば濡れてくるよ」
よくわからないが、ツバサさんの言ってることは、たぶん当たってる。
要約すれば、ぼくが弱虫っていうことだ。

「さあ行きましょう」
ツバサさんは立ち上がっている。

「今日のふたりの出会いが、偶然のものだなんて、まだ思ってる?初体験の相手は、憧れの先輩って昔から決まってるの。→→→→→つまり、わたしよ」
なるほどね・・・って、えっ、えっ、えっ、えーーーーーーーーっ!

そして、ぼくらがやってきた場所。

「こ・こ・ここは!」
「そうよ、サッカー部の部室」
ユニフォームを、せっせと床に敷きつめているツバサさん。

「ここでするんですかぁ」
「初体験には、思い出の場所がいいって人と、忘れられない場所がいいっていう人がいるよ。ここは、思い出がいっぱいつまっているし、忘れられない経験になる。キミの要求のどちらにも、応えているはず!」
要求してませんが。

「そしてこの部室は、わたしが青春を濡らしたスイートスポット。その窓枠にしがみつき、7番のロッカーに押しつけられ、スパイクの突起でぐりぐりと・・・」
なにやってたんですか!?

「もちろん突起は洗ってからよ」
聞いてませんって。

「だからどこか違うばしぉでってぬぐむぬ」
どこか違う場所でって言おうとしたら、突然口をツバサさんのくちびるでふさがれた。

キス。
長い舌が、ぼくの口の中で、奔放に舞う。
手をとられて、ダンスフロアーのまん中に導かれた少女のように、ぼくの舌もツバサさんの舌にあわせて、ぎこちなく踊り始める。

「さあ脱いで、ぜんぶ、早く!」
ツバサさんはいつの間にか、ハダカになっている。
なぜか首からストップウォッチをさげて。

「ヨシオ、マルオ、ユウくん、コバ、タツヤ、モツ・・・」
いきなり、なに言い始めるんだ?

「いろんな人とシテきたわ」
みんなサッカー部員だ。
「ミッキー」
※留学生のブラザー。あだ名は、メジャー。メジャーリーグのことではなく、アレが約30センチ(1フィート)なので、メジャー代わりになるって意味。

「それから、ポンちゃん」
※相撲部に、太りすぎが理由で入部を断られて、なぜかサッカー部に来た同級生。

「でも、いちばん欲しかったのは、そう、ヒトミくん」
・・・あんまりうれしくない。

「電気を消して」
月明かりが映し出すツバサさんのシルエットは、しなやかでうつくしく、ぼくのアレのシルエットもいつのまにか伸びていった。

「いい?」
「はいっ」

ああそのときが、ついについについについについに!
ツバサさんが、ストップウォッチに指をかけた。
3・2・1・
沈黙のホイッスルが、高らかに鳴った。

始まりの、キス。
さっきよりもずっとずっと激しく。
ツバサさんは、ぼくの首筋にくちびるをはわせ、ゆっくりと、乳首の位置までおりてくる。
ぼくは直立不動で、おまけに目まで閉じているから、まるで食べられる寸前の、草食動物。
ツバサさんの舌が、乳首にちろちろと触れるたびに、1オクターブ高い声まで出るし。

ぼく、ああもう、ハズカシハズカシハズカシ→キモチイイ。
それにしても、男も乳首って感じるんだ。知らなかった。
これまでもったいないことをした。

「なにか考えているでしょ?真剣にやりなさい」
トランクスに手をかけながら、ツバサさんがコワい顔でぼくを見上げる。
このアングルから見るツバサさんも、きれいだ。
こんな肉食獣なら、よろこんで食べられます。

ぼくを見上げた顔を下に向けたかと思うと、あっという間にツバサさんのくちびるは、ぼくのアレの自由を奪っている。
まったく動きに無駄がない。
と感心してるうちに、あ。。。