ボクキキⅨタマキ編3:天国の3P。
その夜、これまた彼女の思い出の、和食やさん「のの字」へ。
タマキさんは、ご主人が、トロが大好物だったってことや、自宅でよく女体盛りした話とか(でもわたし自身は、食べにくいのよー。←そりゃそうです)、太刀魚が夕食に出たら、今日はセックスしょうね、のサインだったとか(太刀魚って、すごく精のつく魚らしい)、
ここでフグの白子を食べたとき、口の中に白濁ドロリ汁があふれただけで、もうガマンできなくなって、お店のトイレでセックスしちゃった、とかの話を、うれしそうに、懐かしそうに、ときどき涙ぐみながらした。
ぼくも、もらい泣きしたり、もらいダチしたりした。
幸せな日々だったんだな。それがとつぜん失われたら、ぼくだって思い出の中に引きこもってしまうかもしれない。
「でもね、ヒトミくん」
「はい」
「思い出は、大切。わたしの宝物。だから、今日決めたの。あたらしい思い出をつくろう!宝物を増やそう!って」
・・タマキさん・・・。
教訓⑧思い出は、多いほうがいい。
「ちょっと試したいことがあるんだけど、ヒトミくん、手伝ってくれる?」
「ええ、もちろん」
「あのね、わたし、濡れるかどうか、確かめたいの」
遠まわしな言い方ですけど、つまり、あのぉ、セックス、ってことですよね。
「わたしは生きてる、ってことを実感したいの」
大げさな言い方ですけど、つまり、セックス、ってことですよね。
しかも焼いた太刀魚、いつの間に注文したのか、出てきてるし。
こっちの方に、食べなさいって、押しやってくるし。
「いい?ヒトミくん」
「ぼくはいいですけど、ご主人のこと、ふっ切れたんですか?」
「ふっ切れるわけないじゃないの。でもね、あの人、とてもやさしい人だったから、わたしが元気じゃないと、とても心配してくれたから。わたしはあの人に、元気なわたしを見せてあげたいの」
なるほど。
「ヤキモチやいて、遊園地ではちょっとイジワルしたけれど、やっぱり応援するって、
言ってくれてるし」
???
「ヒトミくんなら、やさしそうだし、いいんじゃないかって」
「どうしちゃたんですか?」
タマキさん、悲しみのあまりおかしくなっちゃったのかも・・・。
「どうもしてないよ。今日も一日、彼とずっといっしょだもん」
そのときはじめて、お箸とお茶がなぜか3つ来ていることに気がついた。
まままま、ま、さささ、かかかかかかか!!!!!
「そうよ、今、ヒトミくんのとなりにいるよ」
どしぇーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
ホテルに向かうタクシーの中。
そっと、タマキさんのほうへ手を伸ばしたら、手の甲をだれかにつねられた。
、、、やっぱり、いるんだ。
こんばんは、って、あいさつはいらないか。
でも、こんなんで、セックスできるのかなあ?邪魔されるんじゃないかなあ?
タマキさんは、にこにこしているけど。
「あとひとつ、ヒトミくんに秘密にしていたことがあるんだけど」
「いいですよ、もうなに聞いても、驚きませんから」
「えー、自己紹介が遅れました。わたしも『例の女』です」
「ああそうですか、、、って、えーーーーーーーっ!」
「ほらやっぱり驚いた」
タマキさんも、そうだったのかぁ、今回はこう来たか・・・
それにしても、いろんなパターンがあるんだなあ、「例の女」。
誰が差し向けてくるのか知らないけど、ご苦労様です。
で、ホテルの部屋。
「うまく濡れるかなあ、わたし」
どうですかねー。ぼくもこのシチュエーションでタツかどうか、心配です。
「さあ、キスして」
なんか、だれかに見られてるようで、やりにくいなあ。
とりあえず、すみません、いただきます。
喪服の未亡人イメージとは真逆の、ラテン系情熱的キス。長い舌は、ぼくの奥歯まで届く。舌圧(そんな言葉あるのか?)が強い。ムチのようにしなる。唾液が多い。口からどんどん、こぼれていく。そして、甘い。感じるキスなんて、はじめてだ。
あのぉ、タマキさん、さっき、濡れるかなあって、不安そうな声出してましたよね、足元が水たまりなんですけど、、、ってぼくも、タッてます。
準備は整ったようだ。よし、ぼくも男の子、覚悟を決めてがんばる、か。
でも、やっぱり、気になる。タマキさんがぼくのトランクスを下ろして、ピエールに熱烈キスをしているとき、右の手は宙を(誰かのアレを握るように)握りしめているし、ぼくが上半身を攻めているとき、タマキさんは下半身を、誰かに向けておっぴろげているし、ぼくがどこも触っていないのに、アエギ声を上げたりする。
もう一人いるんだな、見えないけど、なんかやりにくいなあ、、、って待てよ、これ3Pってことか!そう考えれば、ちょっと新鮮かも。
なんとか前半戦を終え、いよいよチェックインまできた。
タマキさんは仰向けになり、せかすように息を荒げている。
ここで、ぼくは考えこんだ。
ご主人との思い出、つらい出来事、もういちど前向きに生きていこうという決意、
・・・そんな大切なイベントに、ぼくが相手でよかったのかな、ぼくみたいなお子ちゃまで、果たしてよかったのか・・・。
そのとき後ろから、ぼくの腰を押す力が!振り向いても、もちろんだれもいない。
そうか、行け、ってことだな。頼んだぞ、ってことだな。
ぼくは、今度こそ意を決して、ピエールを、イレた。
ぼくが動いてる間、タマキさん、ずっと誰かの手を握りしめている。
もうなにも怖くない、なににも遠慮しない。ぼくはタマキさんを、天国にイカせてあげるのだ。
天国への階段を上りつめる3段くらい手前、つまりタマキさんがイク直前、ぼくはピエールをひっこ抜いた。
このあとのフィニッシュワークは、ぼくの仕事ではない。
いちばんふさわしい人が、ここにいる。
やがてタマキさんは、ふたたび、なにも入ってない腰を振りはじめた。
たしかに、なにも入ってないように見える、が、そうじゃない。
魂が入っている。
激しく、愛情に満ちて、感動的なエアセックス。
ぼくは、我を忘れてじっと見ていた。
(こんなの、見たことない。←あたりまえだ)
そして、タマキさんは、イッた。天国に到着したらしい。
だれかがぼくの耳元で、(ありがとう)と言った。
男の人の、やさしい声だった。たぶん、気のせいではない。
ぼくが服を着おわっても、タマキさんは眠ったままだ。
だれかに腕枕されてるようなポーズ。
(今夜は、お幸せに。でもきっと、つぎの幸せもありますよ)
ぼくが外に出ようとドアを開けると、そこにキツネが立っていた。
無視して脇をすり抜けようとすると、
「まだ怒ってるの?前回のこと」
怒ってないと言ったら、ウソになる、でも、なんか、怒れなくなっている自分がいた。
ぼくはオネーサンに首を横に振って見せた。
「ひとつ質問していいですか?」
「いいわよ」
「愛って、なんですか?」
オネーサンは黙ったまま、こっちを向いている。
でも、もうぼくを見ていない。自分自身を見つめているんだ。
この人も、答えを探し続けている。この人も、ぼくと同じ。
ぼくは彼女に背中を向けて、また歩き出した。