第3回 大阪物語、その1
「旅とは文化の落差の確認である」という思い込みを確認するためにはじめた「47都道府県庁など所在地巡り」について次号では書きます、というようなことを先号で書いた気もするがあっさり撤回&先送りして、10数年前に市川準さんを訪ねて大阪に行ったときのことを書く。「ある意味旅」的な妄想系小旅行ではなく、JR東海を利用しての正真正銘の旅である。って言うか、旅とだけ言っちゃイカンのでしょうな、だって名目は出張でしたから。
当時オレは準さんと某ビールの仕事をやっていて、彼が大阪で「大阪物語」の撮影中だったので、そりゃあ打ち合わせに行かなアカンでしょうとオレとミズグチ(カツオ)としんちゃん(プロデューサー)は0秒3で合意して、その他スタッフ含め総勢5、6人はのぞみで西へ向かった。オレらの宿はリッツカールトンで、もちろんこのホテルはラックレートだととんでもない宿泊費なのだが、電通のコーポレートレートを利用するとホントかよというくらい安く泊まれた(今は少し値上がっているが、ってそんなこと知ってるのはいまだに電通社員のフリして泊ってるからなのだが内緒だ)。
ところで大阪ではリッツカールトンのことを「リッツ」と呼ぶ。ミッドタウンのリッツカールトン東京のことはそう呼ばないような気がするが、確かリッツカールトンとは、「ホテルリッツ」と「カールトンホテル」が一緒になってそういう名前になっ たはずである。ワイデン&ケネディが「ワイデン」と呼びならわされているのもケネディ氏が不憫であるが、カールトンにもあんまりだ。マクドナルドを「マクド」と短縮する街だ、元がどうであるかよりも自分がどう呼ぶかが重要なのかも知れぬ。
それはそうと打ち合わせであるが、演出家と会うのだから演出コンテ周辺以外の打ち合わせは考えづらいのだが、最悪はなっから「打ち合わせはしなかった」ということすら忘れている可能性もあるが、とにかく準さんの滞在している十三のホテルに は行ったことは覚えている。確かPという名前のホテルで、彼はスイートなんだぜと自慢していたが、何となくつくりがマンションぽく、ホテルならばスイートと呼べるがマンション側に印象が転んでしまえば1DK(キッチンなし)に過ぎないわけであって、ホテルにはその空間の幻想がありがたく、つくづくそれに客はお金を払っているんだなと思う。で、幻想なしのホテルに準さんはいらしたのだが、なぜ打ち合わせしたかどうかも覚束ない記憶しかないくせにそのホテルに行ったことだけは覚えているかというと、準さんに差し入れと持って行ったタウンページくらい厚みのある大阪の風俗情報誌を、いらないのなら捨てればいいものをどっかにしまい込んで、次の日着替えを持ってやってきた奥さんに見つかりエライ叱られたと、後日「タカシは余計なことをする」とエライ叱られたからである。
そしてワシらは映画でアタマがいっぱいで広告どころではない市川準をホテルに残し、十三の街へと出撃していくのであった。最初の店は「請来軒」という焼肉屋。準さんの部屋をおいとまするときのセリフが、「焼き肉屋の予約がありますので失 礼します」であった。つくづくタチの悪い連中である。
(「大阪はエライこっちゃ」篇に続く)
(彼岸に旅立つというような表現をするが、正確ではない。帰る場所があっての旅である。準さんは長い旅に出ているのだと思う。今さらながら、ありがとう)
宣伝会議「ブレーン」2010年7月号掲載