第7回 大阪最終戦争。
前回までのあらすじ(大阪出張から始まった大阪物語であるが、つらつらと書き連ねているうちに話の中身はすでに大阪のことでもなく、にもかかわらず小見出しは相変わらず「大阪物語」で、おい待てよこれって「旅チュウ」と「大阪物語」のダブルネームじゃねーの?と言ったらウエダに「ダメがダブルじゃ誰もいりませんよ」と吐き捨てられた)
ついに大阪を出る日になった(唐突やなー)。オレら一行(ナベさん、ミズ、タナボンその他とオレ)の旅程とは、どこで何食べるかもしくは飲むかがまず最初にあって、名所旧跡動植物園何見るわけでもなく、早い話が「食う→飲む」が1ゲームでありその間は次のゲームへのアイドルタイムに過ぎない(今はそんなに食えないもんなあ、若かったんだなあ、と遠い目)。何が言いたいかというと、オレらは最後の食事である新幹線に乗る前の昼メシを食ったばかりで、つまり先に述べた当時のオレらの旅観によるともうすでに旅は終わっているのであって、隠れ鉄ちゃんであるオレ以外の男たちは、あとは新幹線の中で楽しい旅を夢の中で振り返ることもなく爆睡するのみなのである。それなのに最後の午餐に訪れたあるデパートのレストランフロアにある有名寿司店はどうやらグルメご一行のお口には合わなかったようで、その店がいいと言い張ったオレへのメンバーの視線は冷たく(自分が行きたいところを主張するだけじゃ、やっぱリーダーの器じゃねーな)という声が脳内に響き、その声に(初日に準さんとこからつれてってやった請来軒の肉はハアハアいいながら食ってたじゃねーかよ)ときっぱりと無言で反論する。そんな毛羽立った気持ちで乗り込んだエレベーター@13F down to hellでの出来事だ。意地悪(ミズグチほどではない)でいたずらっ子(ウエダほどではない)のオレはあるトラップを露骨に仕掛けてみた。ターゲットはナベさんだ(さっきから、アノ寿司屋、アノ値段でアレかねーを連発してオレを責めるから←妄想)。ナベさんは東京生まれの東京育ち(実は武蔵境)であることをなぜか自慢げに思っていて金沢出身のミズグチや岐阜出身のタナハシなどの地方出身者(オレは京都なので『地方』ではない)に上からモノを言ったりするのだが、そのイヤ〜なムードをこの場に現出してみようと思ったのである。
下りのエレベーターの中は昼メシをすませた人で満員で、知らない者同士息を潜めて地上につくのを待っている。そんなときいきなりオレが「筋金入りのジャイアンツファンのシンちゃんが、この街に来るのってマズいんじゃないスか?」と静かな水面に石を投げ込む。シンちゃんという男はそう来られると引かないのはすでに知っているのだがこの日もきっちり釣れてくれて「そうですよね、もう帰ったほうがいいですよね」と言うまではよかったのだが何を血迷ったかこの魚「そう言えば、この辺りにもなんとかいう球団ありましたよね?」とやっちゃった。空気が変わったのを覚えている。無関係者顔しようと思ったのも覚えている。そして予想を遥かに超えるイヤ〜なムードのまま1Fに着き、先におりてナベさんを待っててもエレベーターから出て来ない、というか出て来れない。180cm強のナベさんをおろすまいと160cmくらいのおっちゃんが背中で踏ん張っているのだ。
すがすがしい敗北感を胸に大阪の空の下を歩くオレら一行を「ドンペリ入りま〜す」と叫びながら自転車の男が追い抜いて行った。
(宣伝会議「ブレーン」2010年11月号掲載)