コトバのコトバ

第9回 スシ好きのスシ屋嫌い。

誤解されてたら困るのでこんな公の場でわざわざ表明するが、オレはグルメではない。グルメとは何であるかという議論はあろうかと思うがそんなもん軽やかにスルーして、いわゆる「どこの味も落ちたな」、「どこの何とか君が最近いいよね、できるようになったね」的なものの食い方はしていなく、食い方と書く時点でまあそれなりで、それ的なグルメ氏にも店にも他人の食だし店だしご勝手にだ、文句つけることはないのだがただスシ屋だけには一言ある。化調上等、いちばん好きなものはすき焼きのタレ味、週に2回はマネージャーのS木に買いに行かせる事務所近所の小諸そばの冷やしたぬきwithとろろand温泉卵に複数のツユ系をドーピングして(オレの座右の銘の一つは、出されたものをそのままの味で食うな、である)、その鈴Kに、へ~(もしくは、うげ〜)という顔で見られているオレであるが、スシは好きで、すんごく好きで、若い頃は生まれ変わったらスシ屋か漁師か水族館員になろうと思ってた(ホント)くらい魚好きだったのに、もうスシ屋はちょっとなあ、と。だって面倒くさいもん。スシ好きなんだけどスシ屋はいや〜どうも、である。

以前に函館に行った時のこと(当時、好きな曲を現地で歌おうツアーというのをやっていて、もちろん個人的に、函館はGREYね)、まあ当然カラオケに直行というわけはなくスシ好きじゃなくても函館はスシなわけでスシ好きはさらにスシなわけで、「K」という有名店ののれんをくぐった(グルメレポーターっぽい言い回し)のだが他に客がいない。そういう場合のスシ屋の気まずさは承知してはいたのだがまあ満席より握り待ちすることもなかろうと、指差されるままにひとりの職人さんの前に座った。名物のイカソーメンを頼む。食う。まあうまいが死ぬほどうまいというわけではない。きわめてざっくり言うと、人間(オレ)は「経験値+期待値」で新たになされる遭遇(イカソーメン)を評価しようとするので、経験が乏しくて期待がデカイだけ(子供のケース)ならまだしも、経験は豊富だが期待なんかしてないよ(大人のケース)ならまだしも、期待が経験を踏み台にジャンプアップ(子供じみた大人のケース)したりすると(案外だったな)などと店を責めたりひとりしょげたりすることも多いがもちろん店のせいとは限らない。

すいているスシ屋の気まずさと先に書いたが、その問題点は担当の職人との間合いが近すぎることだ。そんなこと言うならスシ屋に行かなきゃいいじゃんと言われそうだが、オレはあのカウンターに微妙な気持ちを持っている。職人に話しかけられる。食べる時に必要な情報なら仕方ないがそれはしばしば雑談や彼自身の放言に化ける。連れとの会話を聞かれる。距離が近いので自然と耳に入るというのもあるのだろうが、これまたしばしば聞かないフリもできずに会話に割り込んでくるアホもいる。だいいち、あのポジションも微妙。物理的に上からモノを言われる。そんなの人によるよというのは正しい答えなんだろうが、はじめての、ましてや旅先の店でその地雷を踏まない策はない。

うまいでしょ?と職人は至近距離で問う。その問いに「まあうまいが死ぬほどうまいというわけではない」などと答えられるはずもない。「ええうまいですね」と答えると職人「東京にはホンモノのイカがないからね」だとよ。ありゃま、また文字数が尽きた。荒れ狂う北の海の予感とともにまた来月。

 

(宣伝会議「ブレーン」2011年1月号掲載)